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二次情報が経営者の目を曇らせる

WEBchichi限定連載「佐藤勝人快刀乱麻を断つ~仕事と人生に役立つ実践的問答~」
第14回「二次情報が、経営者の目を曇らせる」よりー

真実は、一次情報の中にしか宿らない

経営者のもとに届く情報の大半は、二次情報である。専務、部長、店長を経由して上がってくる報告は、たとえ悪意がなくとも、その過程で必ず「編集」される。そこには、報告する側の感情、立場、忖度、期待が、無意識のうちに混ざり込む。その結果、経営者は「事実」は数字で把握できても、「真実」からは次第に遠ざかってしまう。

以前、とある支援先での出来事が、私にそのことを改めて教えてくれた。そして同時に、これは特定の会社の問題ではなく、どこにでも起きている構造だと痛感した。

ある日、Aという商品が「1日で100個売れた」という報告が上がってきた。社長は大いに喜び、会議室は朝から明るい空気に包まれた。すると部長が言う。「社長が選ばれた商品だからですよ。さすがです」。

人情としてそう言いたくなる気持ちは、私にもよく分かる。だが私は、コンサルタントとして、その事実を自分の足で確かめに行った。普段着のまま、メモも取らず、トイレ休憩のついでのように売場に立ち寄り、品出し中のパートさんに、作業の邪魔にならない程度に声をかけた。

「これが、1日で100個売れた商品ですか。すごいですね。どうして売れたんですか?」。すると彼女は、少し申し訳なさそうに笑いながらこう言った。「違うのよ。お昼までに10個くらいしか売れてなくて、ヤバいと思って友達に電話して買いに来てもらったの。社長には言わないでくださいね」。これが、現場の真実だった。
この話が店長の耳に入っていたかどうかは分からない。だが、仮に入っていたとしても、それが上に報告されることはないだろう。店長も薄々気づいていながら、あえて触れない。結果として、社長は「100個」という数字だけを見て、成功と判断する。

別のケースもあった。同じく100個売れた日、現場ではこんな声を聞いた。「夕方4時で売り切れたのよ。在庫があれば、120個はいけたのにね」。しかし、店長が報告したのは「100個達成という快挙」と「商品を選定いただいた社長に感謝します。それと現場のみんなのおかげです」という言葉だった。

機会損失という真実は、誰にも手当てされることなく、静かに消えていった。店長に悪気はない。単に自分も嬉しかっただけなのだ。ここに、組織の怖さがある。そして、同時に人間の姿がある。

人は、叱られることよりも、期待を裏切ることを恐れる。責められることよりも、場の空気を壊すことを避ける。そのやさしさが、結果として真実を遠ざけてしまうことがある。 もっとも、経営者自身が現場に頻繁に足を運べばよい、という話ではない。経営者が現場に出向けば、そこにあるのは往々にして「茶番劇」になる。事前予告、大名行列、その日のために完璧に整えられた現場。それでは真実が隠れてしまう。

だから私は思う。経営とは、判断の技術ではなく、省察の営みであると。「数字を見る前に、自分を見る」「成果を問う前に、過程を省みる」「語られた言葉より、語られなかった沈黙に耳を澄ます」。その姿勢がなければ、人は育たない。組織もまた、育たない。

現場を知るとは、情報を集めることではない。人の立場に立ち、人の心の揺れを感じ取ろうとすることだ。顧客の目線、現場で働く人の目線、管理する側の葛藤、経営者としての責任。それらを行き来できるかどうかは、人としての修養にかかっている。事実は、誰でも語れる。真実は、自らを省みる者にしか見えない。人を見る力を失った時、人は道を誤る。組織もまた、静かに崩れていく。だからこそ経営とは「数字を見る技術」ではなく、「人と現実を省察し続ける修養の道」なのだと、私は思う。Going my way.


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